離婚と住宅ローン
離婚にあたって問題となるのが、自宅不動産の住宅ローンが残っている場合についてです。
最初に確認しておきたい事項
まず最初に確認しておきたいことは、2つあります。
(1) | 住宅ローン形態(単独、連帯債務、連帯保証、ペアローン)。ローン残債。金利種別(固定・変動)。完済予定時期 |
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(2) | 不動産の土地建物それぞれの所有権者名(複数の場合は持分割合)。市場評価額。 |
購入時の契約書類(金銭消費貸借契約書、償還予定表、売買契約書、不動産登記簿謄本)で確認することが出来ます。 不明な場合は、住宅ローンを組んだ金融機関に連絡をして契約書コピーや残高証明書などを発行してもらうことも出来ます。 不動産登記簿謄本(履歴事項全部証明書)は法務局で取得することが出来ます。 市場評価額は、簡易査定や流通情報などをもとに、おおよその額を確認することが出来ます。
夫婦間においては、婚姻期間中に築いた財産は、不動産の所有権やローンの名義如何に関わらず、原則として、夫婦の協力で形成・維持してきた「共有財産」となります。 金融機関との関係においては、夫婦のいずれか一方だけの単独ローンの場合、そのローン債務者のみが支払義務を負います。 夫婦2人でペアローンを組んでいる場合、または夫婦で連帯保証や連帯債務となっている場合には、双方ともが完済に至るまで全額についての支払義務を負います。 住宅ローンが残っている場合、不動産の所有権または所有権持分を移転する場合には、金融機関の承諾が必要です。
住宅ローンの種類
住宅ローンの契約形態は、以下の4種類があります。
(1)単独名義 | 夫婦の一方のみが単独でローン債務者となり、全額の支払義務を負い、所有権も単独名義になることが一般的です。 ローンを組んだ方の収入等に応じて借入可能な限度額が決まります。 |
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(2)連帯保証 | 夫婦の一方が主債務者となり、もう一方が連帯保証人となり、夫婦双方ともが全額の支払義務を負うものです。 一定の限度で主債務者と連帯保証人の収入合算(合算者の収入1/2まで、など)出来るため借入可能な限度額が高くなります。 |
(3)連帯債務 | 夫婦とも収入がある場合、夫婦の収入合算により借入可能な限度額が高くなります。 二人とも住宅ローン控除を受けることが出来ます。 |
(4)ペアローン | 1つの不動産について夫婦二人で2つの住宅ローンを組み、双方とも相手方の債務の連帯保証(相保証)をするという形態です。 二人それぞれ団体信用生命保険に加入することが出来ますし、それぞれが住宅ローン控除を受けることが出来ます。 |
市場評価額からローン残額を控除した残金がプラスの場合
市場評価額からローン残額を控除した残金がプラスの場合のことを「アンダーローン」といいます。
売却処分をする場合、その売却後の諸経費を控除した残金を原則折半することで清算することが可能です。
売却処分しない場合、一方が相手方に、その残金の半額を代償金として支払って権利を単独取得するという方法もあります。
連帯債務の場合は、住宅ローンを最初に組んだ金融機関では、連帯保証人の切替に応じてもらえる場合もあります。 連絡債務から単独ローンへの切替については、支払能力が充分にあってローン残高が少額の場合のみ認めてもらえる場合もあります。 他の金融機関に住宅ローンの借換をして単独ローンに切り替えることが出来るのであれば、その方が比較的容易に進めることが出来ます。 単独ローンに切り替えられれば、所有権が共有の場合も単独所有権に変更登記することが出来ます。
連帯保証の切替、ローンの切替、ローン借換、などにおいては、必要書類として離婚協議書(または離婚公正証書)のコピー提出を求められることがあります。 求められないとしても、税務当局から贈与税の対象とみなされないよう、離婚に伴う財産分与であることが証明出来るように、きちんとした離婚協議書(または離婚公正証書)を作成しておく方が安全です。
市場評価額よりもローン残額の方が多い場合
市場評価額よりもローン残額の方が多い場合のことを「オーバーローン」といいます。
ローン残債を弁済することによって、または売却することによって、住宅ローンを完済できるのであれば金融機関の承諾を得ることが可能ですが、完済することが出来ない場合には、抵当権が抹消されないため、不動産を売却処分することは出来ません。
オーバーローンの場合、裁判や調停での夫婦間の財産分与においては、財産分与の対象とはしないという取扱いをされることもありますが、ローン残債から市場評価額を控除した残額をマイナス財産として取り扱われることも多いです。
住宅ローンが単独債務の場合で、その債務者が、そのまま住み続けるのであれば、特に問題はありません。
住宅ローンが単独債務で、債務者でない側が住み続けるという場合、住み続ける方が他の金融機関で借換可能であれば居住者とローン債務者が同一となるので問題ありません。 ただし借換が出来ない場合には注意が必要です。 住宅ローンは、通常、その債務者の居住用として融資を行っていますので、ローン債務者が居住しない場合、金融機関の承諾を得ておかないと、契約違反として一括弁済の請求をされるリスクが生じます。 また、一括請求されないとしても、通常は居住用として優遇金利が適用されているため、その債務者本人が住まないとなると、優遇金利の適用が無くなりローン支払金額が増加することが大半です。 また、税法上の住宅ローン控除も利用できなくなります。
なお、ローン債務者としては、居住者から勝手に転居や転貸借されても困りますし、ローン債務者ではない居住者としては、ローン債務者が勝手に売却処分したり立退き要求してきたり、あるいはローン滞納による競売によって強制退去を求められても困ります。 そのため、居住する側と居住しないローン債務者との間で、賃貸借契約(賃料なし)を締結するか、使用貸借契約(賃料なし)の旨を離婚協議書(離婚公正証書)に定めて、居住権やローン支払などについての取り決めを書面にしておくと良いです。